2016年11月7日

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全5回
米大統領選レポート Part-1
選挙情勢・大統領選挙についての解説

奥田愛基(ReDEMOS)
竹内彰志(ReDEMOS / 弁護士)
芝田まな(大学生)


全5回 2016年米大統領選について現地のレポート1です。第一回は選挙情勢や大統領選挙の仕組みについての解説になっています。(良くも悪くも)世界的な政治の流れに影響を与えるであろう今回の大統領選挙。11月8日に差し迫った選挙の行方を追います。メデイアにあまり流れてない部分にも着目してレポートしていきたいと思います。

世論調査の状況

まず選挙戦の情勢を見てみると、前半戦ではテレビ討論などを通してクリントンが優位と言われており、度重なるトランプの失言を通じ大統領選挙の結果は決まったとさえ言われていた。

ところが、2016年11月に入り、トランプ優位の報道がなされるようになった。クリントンが国務長官時代に私的メールアカウントを公務で使用していた問題や、ビル・クリントン大統領が現職のとき支援者に恩赦を与えていた問題等でFBIが追及するといった報道がでてきたことに要因の一つがある。11月3日現在では、わずか1ポイントだがトランプ優位という数字も出てきている米ABCニュース

州で異なる選挙制度

では、このままトランプが全米で逆転勝利をするのだろうか。アメリカ大統領選の流れを見るために、その独特の選挙制度に注目してみたい。

連邦制であるアメリカでは、選挙は全米51州に別れ、行われる。州ごとに法律・選挙制度が異なり、選挙法が全く異なっている。州ごとの制度として、大きく違うのが、期日前投票=early-votingの有無である。

期日前投票がある州では、戦略として期日前投票を有効活用する取り組みが展開されている。たとえばオハイオ州では2012年の大統領選挙において、現大統領のバラク・オバマが全ての期日前投票日で相手候補者を上回ったということもあり、クリントン陣営は地道に期日前投票を積み上げるよう積極的に呼びかけている。州によっては期日前投票期間が1カ月という地域もあり、期日前投票を働きかけるためにcanvassing戸別訪問や電話掛けに力を入れている。

一方で、期日前投票が行われない州では、直近の世論の動向に引っ張られる傾向にある。一口にアメリカといっても地域事情によって選挙戦の戦略に違いがある。

Swing State激戦州

ここで、大統領選の結果を左右する州での両候補の戦略を見てみたい。伝統的にアメリカ中西部や南部は共和党支持が強く、東海岸と西海岸は民主党支持が強い傾向がある。どちらともとれない州はswing state スウィング・ステートと呼ばれ、揺れる州激戦州として候補者の当落を左右するとされている。大統領戦の終盤には、民主党と共和党が接戦を演じるswing stateで集会やイベントが多く行われる傾向があり、各政党のスタッフも支持層が安定した州から派遣されている。

しかしトランプの終盤戦略は、ミシガン州やノースダコタ州といったクリントン支持の州にも遊説に赴くものとなっている。理由としては、トランプが大統領になるにはswing stateを制するだけでは足りず、大統領になるための攻姿勢でいることがあげられる。 一方のクリントンは、追い上げられているオハイオ州、フロリダ州、ペンシルベニア州などに重きを置いており、確実に支持層を固めるために、期日前投票を増やすといった守りの態勢に入っている。

実際の当選者

これらのことから、必ずしも選挙直前の世論調査結果だけでは、当選者を絞り込むことはできない。11月3日時点では、3100万人以上が全米で期日前投票に行ったとされている。選挙戦は最終日まで繰り広げられ、特に注目すべきは激戦州での取り組みである。swing stateとされるオハイオ州でも、10月31日にクリントンが、11月1日にはオバマ大統領が来るなど、選挙情勢を追うように候補者陣営の遊説が行われている。 いずれの集会においても、期日前投票や、投票率向上、ボランティアの呼びかけなどがしきりにされていた。特に最後の週末である11月5日・6日には、戸別訪問を中心にクリントン陣営のボランティア活動が大々的に予定されており、クリントン優位の情勢がどこまで持続するのか、という点からも分析する必要がありそうだ。

ネガティブキャンペーン

クリントン陣営の動きとして印象的なのは、トランプ批判に集中しているよう見受けられることである。地上波テレビコマーシャルでは、トランプ批判と対比させて、女性の権利を守ってきたクリントンという印象をうえつけている。 実際の集会でも、候補者によるトランプ批判の発言が目立つ。たとえば、10月31日のオハイオ州クリーブランド・ケント州立大学でのクリントンのスピーチは、国務長官としての経験も踏まえ、安全保障に議論を集中させ、日本や韓国に核武装を容認するというトランプの発言を批判し、知識も浅く過激な発言をするトランプには大統領になる資格がないと話した。 また、11月1日のオハイオ州コロンバス市でのオバマ大統領のスピーチでも、トランプを批判する内容があった。トランプは労働者のチャンピオン代表になると言っているが、労働者を搾取してきたトランプがチャンピオンになるなんてありえない大統領になったらクリントンを投獄すると言っているトランプは正気ではないなどと批判を繰り返した。 トランプの政策ではなく、彼の言動から、彼には大統領の資格がないとする論理である。ヒラリー陣営・トランプ陣営ともに、実際の政策論争とは別の観点からスピーチをしているような印象だ。

 

投票日まであと4日。トランプはスウィングステートのオハイオ、フロリダ、ネバダ、で逆転し、大接戦になってきている。どちらが勝つかは、再度読めない状況になって来つつある。地道な票の積み重ねをするクリントンか、それともある種の熱狂的な人気を持つトランプか。次回の記事では、トランプやサンダースが今回の予備選挙を含む大統領選挙で多くの注目をあつめた背景を解説していきたい。 毎回ボリュームがある文章になりそうですが… 次回もお楽しみに!

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