2016年11月9日

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全5回
米大統領選レポート Part-3
大統領選挙・集会についてのレポート

奥田愛基(ReDEMOS)
竹内彰志(ReDEMOS / 弁護士)
芝田まな(大学生)


いよいよ投票日です。今回は大統領選挙での集会の様子についてレポートします。日本では、選挙期間中になると、選挙カーが町中を走り回り、街頭では候補者が演説している様子が一般的である。一方、アメリカではどのような光景が繰り広げられているのか。日本でも報道される公開討論会に加えて、アメリカでは、とりわけ各地での遊説が重要とされており、候補者は日々、全米を飛び回っている。今回はいわゆる遊説と呼ばれるrally集会に注目してみよう。

全米で行われる遊説

第1回の記事でも紹介したように、アメリカの大統領選挙にはswing state と呼ばれる、共和党・民主党の支持がどちらにも偏っていない州アイオワ州、ウィスコンシン州、オハイオ州、コロラド州、ニューハンプシャー州、ネバダ州、ノースキャロライナ州、バージニア州、フロリダ州、ペンシルバニア州、ミシガン州があり、両陣営が激戦を繰り広げている。候補者の遊説記録を見ても、トランプはニューハンプシャー州、アイオワ州、フロリダ州の順に、そしてクリントンはアイオワ州、ニューハンプシャー州、フロリダ州の順に、各地域に何度も訪れて集会を開いている。つまり、候補者の遊説場所を追っていくと大統領選の結果の鍵を握る地域が見えてくるのである。

会場の概要

遊説では、日本に見られるような街宣車を用いた景色は見られない。大学などの体育館や広場で集会が開催されることがほとんどである。候補者本人やオバマ大統領が来る集会は、数千人規模の会場で行われる。アメリカの選挙を見たことがない人は、まずその会場の雰囲気に圧倒されることだろう。

遊説は、ほぼ毎日昼ごろから行われる。その日のゲストにもよるが、集会の前の会場には1時間ほど前から長蛇の列ができる。そのため、1回の集会で実際にスピーチをしているのは2時間ほどだが、入場待ち時間やスピーチの間の時間を含めると、遊説全体の時間としては3時間ほどかかる。なお、オバマ大統領の集会では、入場で並んでいるときから4時間ほどかかった。また、日本の集会では椅子があるのに対し、米国では参加者は立って聞くのが基本である。そのため車椅子の方や高齢者に向けてプライオリティーシートがあり、バリアフリーに配慮している。

カメラが最大限集会の盛り上がりを映せるように、会場にはメディア席が設計/指定されており、360度支持者が候補者を囲む絵が撮れるようになっている。参加者も候補者が近く感じられる設計で、この緻密なまでの会場設計はまさに劇場さながらである。照明や音響、バナーなどはトラックによって移動され、会場に設置され、どの会場でもだいたい同じような設計ができるようになっている。

応援演説

候補者以外にも応援として同じ党の議員が演説をしに来る光景は日本でもよくみられるが、アメリカでは、そもそも候補者本人がいない集会が開催される。ひとつには候補者だけでは全米をくまなく回りきれないという理由があるが、多様なスピーカーを用意することで多くの層にリーチしようという狙いもある。

クリントン陣営のスピーカーで人気なのがミシェル・オバマ大統領夫人といわれているが、他にも大統領のバラク・オバマや候補者の夫であるビル・クリントン、クリントン、ミュージシャンのファレル・ウィリアムス、ビヨンセ、レディ・ガガ、バスケットボール選手のレブロン・ジェームズ等が集会でスピーチしている。中には応援のためのコンサートを開くアーティストもいる。

参加者
―どんな人が来るのか―

では、どんな人が集会に来るのだろうか。メディアでよく報道されるのは熱狂的な候補者のファンであるが、実際には熱狂的な人が大多数なわけではない。私たちがインタビューしたなかでは、誰を支持するかを決めかねており判断材料のひとつとして参加している人もいれば、珍しいもの見たさに来ている人、家族に連れられて来ている人、また、数は少ないがクリントン陣営の集会にトランプ支持者が来るなど対立候補支持者もいた。

会場が大学の体育館で開催されることが多いこともあり、日本に比べて圧倒的に若い参加者が多かった。しかし、インタビューをしてみるともっと若い人に関心を持ってほしいという声が多数聞かれ、この国でも相対的に若い人が政治に関心がないという感覚があることが窺えた。アメリカでも投票率が50%程度と低レベルで推移しており、その意味では日米とも共通の課題を抱えているといえる。http://www.afpbb.com/articles/-/2534378?pid=3486762

オバマ大統領の応援演説

ここでは、大統領選挙終盤の11月1日に行われた、オハイオ州コロンバス市でのオバマ大統領のクリントン応援集会を紹介したい。

この日はオハイオ州の地元大学であるキャピタル大学で集会が行われた。キャピタル大学にはバスケットコートが何面も入る大きな体育館があり、そこにステージが用意されていた。加えて、大体育館に隣接する中規模の体育館にも、同時中継用に第2会場が準備されていた。

この日はクリントンの応援集会ということで、クリントン本人ではなく、オバマ大統領がメインスピーカーだった。開場前から長蛇の列ができていた。日本との大きな違いとしては、ボランティアが行列の参加者に向かって期日前投票の呼びかけとボランティア勧誘をしていることがある。ほかにも、選挙は政党職員だけではなく、ボランティアなどが主戦力になっており、いわゆるアウトリーチ戦略が行われていることなどがあげられる。行列は、さながらテーマパークのアトラクションの列のような雰囲気で、列の途中でキャンディやビラを配ったり、集会で多様されるフレーズ/コール&レスポンスの練習、自作の候補者Tシャツおそらくは無許可などグッズ販売を行っており、飽きないものになっていた。

この集会では、日本と同様、何人かの議員が応援スピーチをするが、開場からスピーチが始まるまで、バンドの生演奏が行われており、スピーチの合間も生演奏や音楽を流してライブのような雰囲気だった。

応援スピーチで登壇するのは、その地域の議員のほか、その地域で選挙活動を行っている学生。学生は、オハイオ州でのクリントンへのサポートがもっと必要だということや、選挙キャンペーンの参加を呼びかけていた。

終盤、オバマ大統領が登壇し、40分以上にわたりスピーチをしていた。オバマ大統領は任期中に彼がしてきたことをアピール、クリントンの政策の紹介や彼女の大統領としての資格を強調したうえで、冷笑的にならずに、アメリカとその子どもたちの将来のために一人一人が希望を持ち主体的に政治に参加していこうと訴えた。会場は熱気に溢れ、オバマ大統領を撮影したり声を出して相槌を打ったりと、前日のクリントン本人の集会よりも盛り上がっている様子だった。

最近のオバマのスピーチで最も印象的なのがDon’t BOO, VOTEブーイングするのではなく投票しようというフレーズであり、先日のオバマの応援集会で、トランプ支持者がブーイングをした際も、近くのクリントン支持者を制止して、オバマは意見をいうのは自由だ、投票にいこうという趣旨の発言をして、会場の支持を集めていた。対立する意見を叩くのではなく、多様な意見を尊重した上で投票という行動で示そうという、民主主主義的価値を重んじるアメリカ人に響く語りかけがなされていた。

LOVE TRUMPS HATE

クリントンのキャンペーンの代表的なスローガンであるのが、LOVE TRUMPS HATEtrump: 負かすという意味という、トランプ嫌いの人はクリントンへ投票するように、という呼びかけだ。日本語で説明すると愛はヘイトに勝る愛を!トランプはヘイト憎悪とをかけたような意味を持つ。集会の参加者に配るプラカードには、メイン・スローガンのSTRONGER TOGETHER力を合わせてより強く、会場の装飾にはVOTE EARLY期日前投票に行こうなどのメッセージがあった。トランプが移民への攻撃、分断を強める中、ヒラリーのスピーチでは何度も団結を呼びかけたのが印象的であった。

また、クリントン支持者は会場の外で市民が勝手に売っているTシャツや帽子、缶バッジなどのグッズを身にまとっていた。グッズにはクリントンの発言や、nasty woman女性蔑視むきだしにトランプがクリントンを汚らわしい女と呼んだことに由来するというフレーズを逆手にとったコピーが書かれていた。女性初の大統領ということを意識しており、女性の権利の問題をトランプの女性蔑視的な発言と絡めて訴えていた。

クリントンの演説の最後は、参加者と一緒にLOVE TRUMPS HATEとコールをして拍手喝采で終わるといったように、スローガンによる一体感を生み出すものとなっていた。具体的な選挙の応援の仕方やボランティアの募集を候補者本人が語るのも日本との大きな違いの一つだろう。

Make America Great Again

一方、トランプのキャンペーンの代表的スローガンが、Make America Great Againアメリカを再び偉大な国にしようである。トランプ自身、このスローガンが入った赤い帽子をかぶって演説することが定番であるし、支持者も同じような帽子や、スローガンの入ったTシャツを来て一体感を醸成している。古き良きアメリカ、あの頃をもう一度といったイメージで、白人中間層の票を狙う。

私たちがインタビューを行った時、トランプ支持者がヒラリー支持者と違いインタビューに対して非常にネガティブな対応をしたのも印象的だった。10人にインタビューして答えてくれたのはわずか2人だけだったそもそも開場には白人がほとんどでアジア人はほとんど居なかった

最近の集会で最も盛り上がるフレーズが”LOCK HER UP”彼女を逮捕しろ!というもので、これはFBIがクリントンのメール問題を再調査していることからきている。数千人が、相手の大統領候補者を逮捕すしろとコールする様子はこれまでにない異様な光景だと言っていいだろう。

集会の盛り上がりとしては、正直クリントンの集会よりも熱狂的だ。ドキュメンタリー映画『トランプランド』を作ったマイケル・ムーアが、オハイオでの集会でトランプが人気を集めている理由について没落したアメリカの中間層の痛みに訴えることに成功しているからだと語り、家も仕事も車も失い、家族にも逃げられ、すべてを奪われ中間層から脱落した人々は、既存の秩序を根底からひっくり返すことを公言しているトランプに投票するだろう。そうなればトランプが勝ってもおかしくないhttps://www.youtube.com/watch?v=B9TCG9-YAyU&t=3297sと説明する。

実際に選挙のスタッフが戸別訪問することに同行しオハイオの町を回ったが、そこには家賃や借金が払えなくなり差し押さえらた家、空き家等が多くあり、居住環境としは劣悪な環境と言っていいような家もあった。これらの中間層の没落の怒りや痛みがトランプ現象を産み出していると言っていいだろう。しかし、この問題がトランプによって解決できるのかどうかはまた別の話である。

集会の位置づけ

集会には、党員も来れば全く党員でない人も訪れる。支持を決めてない人も、対立候補支持者さえも参加する。主催者側は、当然の前提としてこれを受け入れている。事前予約による優先入場があるものの、予約のない参加者も同じ会場で党員と同じ場所でスピーチを聞くことができる。

参加者にとって、集会は判断材料のひとつとして位置づけられている。主催者である政党側、候補者側も、当然のようにこのことを認識し、受付応対や会場の運営を行っていた。

ニュースでは毎日集会でどのような発言がされていたかが報じられることもあり、候補者やスピーカーも当然、判断材料として集会が位置付けられていることを認識している。そのため、会場に来ている参加者向けではない、メディアを意識した発言も目立つ。これらの集会の熱気を参加者以外にも伝えるために、かつ報道によって一部だけが切り取られないために、youtubeにすぐ集会の様子がアップされ、SNSなどを通して拡散されている。Facebook LIVEでの集会の視聴者はトランプ、クリントンとも数万人を超える。

1つの集会で達成する目標が、開催地域でのイメージアップだけでなく、報道、全米市民、対立候補とのコミュニケーションをも含んでいる。

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