2017年6月5日

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ポスト新自由主義を構想する時代

平野健(中央大学教授 / 経済学)


2008年の世界恐慌以来、新自由主義の反省が語られ、大きな政府(積極的な財政・金融政策)の復活を求める声が高まっています。それは一種の流行ですらあります。しかし、世界恐慌時の銀行救済やアベノミクスに見られるように、ある種の大きな政府はすでに現実のものになっています。この新しい局面でポスト新自由主義を構想するには、大きな政府か、小さな政府かという基準ではなく、誰のための政府かを基準に経済政策を論じることが必要になっています。

 

20世紀半ばの高度経済成長は、製造業の大量生産・大量消費が順調にまわったことによるものでした。企業が需要増大を予感して生産量を増やそうとする時、設備投資と雇用増大が必要であり、雇用増大は雇用報酬を増やし、それが家計を潤して自動車や家電や住宅の需要が増える、そういう好循環が成立していたという意味です。このような好循環がベースにあったので、政府が財政政策や金融政策を駆使して需要創出をした時、それが景気拡大や経済成長に与える影響が大きかったのです。

 

しかし、そうした効果は製造業の労働生産性が上昇すれば低下していきます。アメリカでは製造業の労働生産性はこの60年間で9倍化しています(図1参照)。そうすると生産増大がもたらす雇用増大の効果は大幅に低下します。図2にあるように、高度成長期の1960年代は生産拡大と雇用増大がパラレルに生じていましたが、1970年代には生産拡大しても雇用は横ばいで増えず、1990年代以降はむしろ生産拡大は雇用減少と共存するようになりました。もちろん製造業で解雇された労働力はそのまま失業者になるのではなくサービス業で再雇用されるのですが、サービス業は製造業よりも賃金水準が低いので家計が全体として貧しくなる傾向は免れません。こうなると政府が積極的に財政・金融政策を発動しても、それが景気拡大や経済成長に結びつく効果が低下します。

 

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この流れの転換点である1970年代に大きな政府から小さな政府への転換が叫ばれたのは決して偶然ではありません。新自由主義は、小さな政府を掲げることで、低成長でも大企業の利潤追求が可能になるように社会のルールや人びとの行動規範を変えてきました。規制緩和、自己責任、自立自助などがそれです。しかし、その一方で減税、軍拡、低金利、バブル誘発、資本注入、不良資産の買い取りなど、企業が望む大きな政府機能はますます肥大化させてきました。家計・労働者に向けては小さな政府、大企業・大銀行に向けては大きな政府、これが新自由主義の本当の姿だったのです。

 

このような歴史的現実を前に、私たちはどのような政府機能を構想すべきでしょうか。大型公共投資によって企業の生産拡大を促し、そこから雇用増大−所得増大−景気回復へと連鎖することを期待する類の大きな政府(例えばポール・クルーグマン)は明らかに時代遅れです。そこに金融緩和やインフレターゲットを加えても(例えばアベノミクス)同じです。それらは大企業・大銀行・投資家を潤しはしても、家計を潤し、個人消費を伸ばし、景気回復につながる、ということは期待できません。労働生産性の上昇によって生産拡大から雇用増大へのリンクが切れているからです。

 

このような時代において必要なのは、社会保障の拡充、教育・医療の無償化など家計の消費生活を直接に守り支えるための制度であり、そのための財源確保です。考えてみれば、労働生産性の上昇が貧困化をもたらしているということ自体が不思議ではないでしょうか。その不思議が現実に成立しているのは、経済システムが家計は雇われなければ所得が得られず、消費ができない企業は利潤動機で雇用を決定するの2つを原理として動いているからです。この2つの原理を部分的にでも抑止できれば、逆に労働生産性の上昇を豊かな消費生活の条件として活かす可能性が大きく広がってきます。生活を普遍的に保障する制度の拡充はその第一歩となります。直接に家計のための政府、これこそがポスト新自由主義の基本構想ではないでしょうか。

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